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2026(令和8)年度のご挨拶

2026(令和8)年度のご挨拶

代表理事 小島 明

(一財)アジア・ユーラシア総合研究所


 私たちは、世界の歴史的な大転換の中にいるようです。構造的な大転換だから、物事を見る際の座標軸を見直す必要もありそうです。 

 「資本主義や貨幣、法人について研究してきた。これからもこのような問題について研究が続けられることを当然と考えてきた。ところがここ数年自分の足元が崩れつつあるという気がする。好きに学問ができてきたこと自体が当たり前のことではないと思うようになってきた。それほど世界の変化は私の予想の範囲を超えていた。」と経済学界の大論客、岩井克人東大名誉教授が「私は今年78歳になる」と前置きしながらしみじみと語ったのは2025年1月6日付け「経済教室」欄においてでした。しかし、それから1年以上たった今日、いっそう大きく、かつ多くの変化が生まれています。米国のトランプ政権による一方的な高関税の導入、WTO(世界貿易機関)ルールの無視、いくつもの国際機関や条約からの脱退、さらに今年のベネズエラへの軍事進攻、世界的な石油危機を招いているイランへの大規模な軍事攻撃などなど。

 

  こうした動きは、国際関係論、貿易論、地政学、地経学などこれまでの様々な論文、教科書を含む著作を大きく書き直さなければならない状況になっています。ロシアとウクライナの戦争が長期化しているなか、トランプ政権のバンス副大統領が「欧州の脅威は中露ではなく、欧州の内部にある」と発言(2026年2月14日のミュンヘン安全保障会議)で、さらにドイツの極右グループAfD(ドイツのための選択肢)の党首とは面会したが、ドイツの首相とは合わないという予想外の行動で世界を驚かせました。さらにトランプ大統領は対イラン戦争において非協力的だと欧州の同盟国をあからさまに非難し、米国自身が主導してきたNATO(北大西洋条約機構)からの脱退までほのめかしています。


 また、米国国内ではリベラリズムの否定、大学や報道機関への政府介入も目立ちます。米国はかつてのような「自由民主主義」の国ではなくなってしまいました。現に、スウェーデンの独立調査機関、V-Dem研究所が今年3月に発表した「民主主義リポート2026」は、米国の自由民主主義指数が179カ国・地域のうち前年の20位台から51位と1978年以来の低水準にまで引き下げ、「自由民主主義」グループから米国を除外しました。


 米国をはじめ、世界の動向をどう理解し、日本やアジア諸国はどう対応すべきなのか。私たちはこれまでの座標軸を点検する必要があります。そうした基本的なアプローチが私たちのアジア・ユーラシア総合研究所の課題だと思います。


 フランシス・フクヤマが「歴史の終わり」論文を発表し米国により民主主義、自由主義への歴史的な進化の過程が頂点に達したと論じたのは1989年のことです。直後にソ連が内部崩壊し、米国が唯一の超大国になったとの議論が生まれました。しかし、ソ連はある意味で復活し、2022年以来、ウクライナとの戦争を続けています。

 日本でベストセラーを続ける『西洋に敗北』の著者、ユダヤ系フランス人の歴史人口学者・家族人類学者、エマニュエル・トッドは「ソ連の崩壊が西側の勝利だと誤解された。実際は崩壊に向かう米ソの両体制のうち、ソ連が先に崩壊しただけだ」と断じ、「勝ち誇った米国が2001年に中国をWTOに迎える自殺行為に出た」と指摘しています。彼はまた2025年末に、米国が「暴力的な衰退」過程をたどる可能性もあると予測しました。 そうした地政学的な大変化に米国以外の各国はどう対応したら良いのでしょうか。歴史的な視点、各国間関係の視点、さらにAIに象徴される技術のパラダイム転換により変わる経済・産業・生活と世界経済への視点など新しいアプローチが必要でしょう。


 日本にとって日米関係が基軸であることには変わらなくても米国自体のこうした変化をどう考えるかが肝要です。米国と中国の対立は、本質的には覇権争いでしょう。それでも両国は対立しながらも相互に首脳訪問をし、対話も続けています。米国の51番目の州だと属国呼ばわりされたカナダは中国との首脳会談で新しい相互関係を切り開こうとしています。米国の非難を受ける欧州各国も「米国が抜けた後の国際関係」を模索、そのなかで各国首脳の北京訪問が相次いでいます。


 そうした世界の流れのなかで、中国との関係が悪化し、首脳間の交流を欠いた日本は特異な状況にあると思われます。日本は民主主義、自由貿易、法の支配を世界「共通の価値観」だとしていますが、かつてその価値観を世界に普及させた米国が変質している現状を踏まえて、それに対応した外交を考えるべきでしょう。日本が「経済大国」だという自己認識を改め、最近、注目されつつあるミドルパワー(中堅国)の連携も検討に値するでしょう。


 トランプ大統領の”暴走“が彼に品格の問題は別として、米国自身が主導してきた国際システムを自ら壊す姿勢はポスト・トランプでも基本的には大きく変わらないかもしれません。保護貿易政策は民主党政権時代から導入されてきた。


 さらに言えば、1971年の「新経済政策」における金とドルの交換性停止で第二次大戦後のいわゆるブレトンウッズ体制の柱であるIMF(国際通貨基金)の基本を放棄してしまっています。米国はどんどん内向き、自国中心へ傾斜してきました。ただ、覇権国から米国が退位しても、米国に替わる新しい覇権国がいない。中国も世界を引っ張る国際理念を持ち合わせていません。


 そうした中で、われわれのアジア・ユーラシア総合研究所は中立、独立の研究所として、変わる世界のなかでの基本的な課題を分析し、内外に発信する使命を持っていると思います。

 


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