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2023年上半期の人民元対ドル相場中間値は6.5元に向けて徐々に上昇

更新日:2023年4月17日

福山大学名誉教授  大久保勲

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1.はじめに

最近一年間の人民元対米ドル相場中間値の動きを振り返り、人民元対米ドル相場が上昇

または下落した主な要因を確認し、2023年上半期の人民元対米ドル相場中間値を予測する

こととした。結論から先に記せば、2月1日現在1米ドル=6.7492元の人民元対米ドル相場

中間値は、双方向への変動を繰り返しながら徐々に1米ドル=6.5元に向けて上昇し

、FRB(米連邦準備制度理事会)の金融引き締め状況、中国経済の回復状況及び輸出の伸

び等に伴う外為市場での米ドルの需給次第で、6.5元を超える可能性もある。

なお、1月20日現在、中国外為取引センター(CFETS)人民元相場指数は99.76で、人民

元はバスケット通貨に対して基本的に安定を保持している。


2.最近1年間の人民元対米ドル相場中間値の動き  

 2022年1月の人民元対米ドル相場中間値は1米ドルが6.3元台であった。春節後も2月、3

月と6.3元台が続いた。4月20日までは6.3元台であったが、4月下旬には6.4元台から6.6元

台まで下落した。5月10日には6.7元台となり、5月末は6.6元台に戻り、6月は6.6元台と6.7

元台であった。7月は主に6.7元台であった。8月19日には6.8元台となった。9月14日には

6.9元台となり、9月下旬には7.0元台から7.1元台になった。10月は主に7.1元台であった

。11月1日に7.2元台となり、11日以降は7.1元台と7.0元台であった。

12月2日は7.0元台、6日に6.9元台となり、年末の12月30日は6.9646元となった。

 2023年1月は、6.9元台でスタートし、5日に6.8元台、10日に6.7元台となり、1月20日の

6.7702元で春節休みに入った。春節明けの1月30日は6.7626元となった。


3.人民元対米ドル相場が上昇または下落した主な要因


(1)2022年1月から4月20日までは、人民元対米ドル相場中間値は1米ドルが6.3元台で不変だった主な要因は何か。

 一つの重要な要因は市場の需給が働いていたことである。2021年以来、中国域内の外為

市場は総体として米ドルの需要より米ドルの供給が大きかった。短期的でもっとも直接的

に為替相場に影響を与えたのは、強い輸出であった。輸出はほんど毎月市場の予測よりも

好く、貿易黒字の高止まり、外為流入の増加等が人民元を支えた。米ドル指数とは、ユー

ロや日本円など複数の主要通貨に対する米ドルの為替相場を指数化したものである。米ド

ル指数は1月が94から97,2月が95から97,3月が97から99であった。1月、2月に比して3

月はFRBが0.25%利上げしており、米ドルがやや強くなっている。2022年第一四半期は、

中国経済の成長率は4.8%と好調であった。第1四半期の輸出入総額は9.42兆元に達し、前

年同期比10.7%増加した。

 現行の人民元相場中間値値決めのメカニズムによれば、人民元相場は主として二つの面

の要素が決定する。一は、前日の終値、もう一つはバスケット通貨の相場の動向である。

前日の終値は国内の外為市場の需給関係を大きく反映する。バスケット通貨の動向は国際

金融市場の変化を反映する。

 通常は、米ドルが強くなれば人民元が弱くなり、米ドルが弱くなれば人民元が強くなる

。そうでなければ、人民元は米ドルと強弱を共にすることになってしまう。2021年の初め

から米ドルは上昇し、年間で6~7%上昇した。しかし、人民元相場は下落せず却って若干

上昇した。一つの重要な原因は市場の米ドル需要より米ドル供給が多かったことである。

参考までに、2021年6月の米ドル指数は89から92であり、人民元対ドル相場中間値は6.3元

台から6.4元台であった。


(2)2022年4月下旬から10月まで人民元対ドル相場が下落した主な要因は何か。

 FRBは、2022年3月から利上げを続け、3月0.25%、5月0.5%、6月0.75%、7月

0.75%、9月0.75%、11月0.75%、12月0.5%と2022年に合計7回利上げした。FRBの利上

げで、米ドルが段階的に強くなり、人民元に切り下げ圧力がかかった。米ドル指数の動き

をみると、4月は98から103まで、5月は101から104まで、6月は101から105まで、7月は

105から108まで、8月は105から108まで、9月は109から114まで、10月は109から113ま

でとなった。

 2022年4月11日、米国の10年物国債収益率は2.76%となり、中国の10年物国債収益率は

2.75%で横ばいであり、中国と米国の10年物国債のスプレッドは2010年以来初めて逆転し

た。FRBによる利上げは3月0.25%、5月0.5%に続いて、0.75%の利上げが、6,7,9、11

月と続いたので、米ドル指数は114まで上昇し、人民元対米ドル相場中間値は7.2元台まで

下落した。中国経済の成長率は、第二四半期に0.4%に落ち込み、第三四半期は3.9%とな

った。

中国の2022年上半期の国際収支の特徴の一は、貨物貿易の黒字が前年同期比増加したこ

とである。貨物貿易黒字は3207億ドルで、36%増、暦年同期の最高値となった。うち、貨

物貿易輸出16437億ドル、前年同期比13%増、輸入13230億ドル、8%増となった。また、

直接投資純流入がかなり高い水準を保持した。上半期、直接投資純流入は749億ドルであ

った。うち、対中直接投資純流入は1496億ドル、対外直接投資純流出は747億ドルであっ

た。2022年8月2日付け『経済日報』は、「ことしの初めから米ドル指数は累計で11%以上

上昇した。ユーロ、英ポンドと日本円の米ドルに対する切り下げ幅は10%と17%の間で

あり、人民元は米ドルに対して5.8%切り下がった」と報じている。

 2022年9月の米ドル指数は、最高で114まで上昇し、人民元は受動的に切り下げざるを得

なくなった。そこで、中国人民銀行は外貨預金準備金率を9月15日から2%引き下げて6%

にした。外貨預金準備金率の引き下げは、域内金融機関の外貨預金準備金が減少すること

で、市場の米ドル流動性が増加するのを助け、人民元相場安定に有利である。さらに、中

国人民銀行は、9月28日から、先物売り為替業務の外為リスク準備金率をゼロから20%に

引き上げた。この先物売り為替業務の外為リスク準備金率引き上げは、外為市場安定の期

待を示したもので、人民元相場を合理的で均衡のとれた水準で基本的に安定させるという

政策的信号であり、人民元相場が一方向に動くという予期を一定程度抑制する助けとなり

、付和雷同的動きの出現を避けるためのものであった。

 税関統計によれば、2022年1-9月期、中国の輸出入総額は31.11兆元で前年同期比9.9%

増加した。対外貿易の状況から見ると、2022年1-9月期、貨物とサービス純輸出の経済成

長に対する寄与率は32%で、GDP成長を1%牽引した。2022年1-9月期、中国の国際収

支は基本的にバランスを保持していた。うち、経常収支黒字は3104億ドルで、史上同期の

最高値となり、前年同期比56%増、黒字規模と同期のGDPの比は2.4%で、引き続き合理

的で均衡の取れた区間にあった。直接投資は純流入で、クロスボーダー資金流動は平穏で

秩序があった。2022年1-9月期、直接投資純流入は469億ドル。うち。中国への直接投資

純流入は1608億ドル、対外直接投資純流出は1139億ドルとなった。

 

(3)2022年11月中旬から2023年1月まで人民元対ドル相場が上昇した主な要因は何か

 人民元対米ドル中間値は12月6日に1米ドル=6.9746元と、6元台になってから双方向へ

変動しつつ徐々に上昇した。主な要因は米ドル指数が105から103へとやや弱くなっていっ

たことと考えられる。

 米ドル指数は2022年11月が105から112まで、12月が103から105まで、2023年1月は

101から105までとなっている。FRBの利上げは来る2月1日に行われ、0.25%利上げの可能

性が高いとされ、3月に再度0.25%の利上げの可能性があるとされている。

 ドル指数が下落したことは人民元対米ドル相場が強くなった直接の要素である。中国が

実施しているのは、市場の需給を基礎とし、バスケット通貨を参考にして調節を行う、管

理された変動相場制度である。2022年9月のように、人民元相場が連続してかなり速く変

動する時には、監督管理部門は適時にふさわしい政策手段とマクロで健全な手段を講じて

、市場の期待と信頼の安定を助ける。

2022年11月末現在、中国の外貨準備規模は31175億米ドル、10月末よりも651億ドル増

加し、外貨準備規模は3.1兆ドル台に上昇した。また2013年11月以来、単月での新規増加

規模は最高となった。

1-11月中国の輸出入総額は5.78兆米ドル、5.9%増。うち、輸出3.29兆ドル、9.1%増、

輸入2.49兆ドル、2%増、貿易黒字8020.4億ドル、39%拡大した。

 FRBの金融引き締めペース鈍化の思惑で、ドル指数が下落し、人民元対米ドル相場は双

方向に変動しながら上昇している。しかしながら、今後の米国経済についても中国経済に

ついても楽観な見方とかなり慎重な見方がある。


4.2023年上半期の人民元対ドル相場中間値の見通し

 2022年12月15-16日に開催された中央経済工作会議は、「人民元相場を合理的で均衡の

取れた水準での基本的安定を保持しなければならず、金融安定保障体系を強化しなければ

ならない」と要求した。また「重大な経済金融リスクを有効に防止解消しなければならな

い。不動産市場の平穏な発展を確保しなければならず、地方政府の債務リスクを防止解消

し、断固としてその増加を抑制し、ストックを解消しなければならない」とした。

中央経済工作会議後に、「中国経済は総体として再び上昇する望みがあり、疫病予防抑

制措置は経済回復に重大な積極的な影響をもたらし、2023年前半特に4-6月期に、社会生

産生活秩序は回復が加速し、経済活力の放出が加速すると見込まれる」(『経済日報

』2022年12月19日付け)との見方が出てきた。

 2023年1月4日付けの『経済日報』で、同紙姚進記者が、2023年の人民元対米ドル相場の

見通しについてまとめている。それによれば、「2023年の人民元相場動向について、専門

家と研究機構は次のように見ている。中国国内の各種政策の支持、米ドルの強弱、クロス

ボーダー収支の変化及び監督管理当局の為替相場関連政策が2023年の人民元相場動向に影

響を与える多重の要素であるが、中長期的に見ると、人民元の上昇下落は米ドルの強弱に

よって決まらず、また中国と米国の金利差によって決まらず、中国経済のファンダメンタ

ルズによって決まる。経済のファンダメンタルズが安定に向かったのち、人民元相場もそ

れによって効果的にサポートされ、人民元相場は年間を通して強含みに変動すると予想さ

れる。」「鵬揚基金チーフエコノミスト陳洪斌氏は、2022年11月末から始まった人民元上

昇はおそらく短期的な調整変動ではなく、一つの趨勢的上昇とみており、その判断の根拠

として二つの原因を挙げている。一に、国内の不動産、疫病感染等の面の短期の問題は今

年徐々に改善し解決する、二に、米国経済の先行指標は今年の第二第三四半期にかなり大

幅に下落する。」等と記している。

 2023年1月13日税関総署が発表したデータによれば、2022年中国の貨物貿易輸出入総額

は初めて40兆元の大台を超え、42.07兆元に達し、2021年に比して7.7%増加した。

 2022年12月末現在、中国の外貨準備高は31277億米ドルで、3.1兆ドル台を維持している

 1月15日付け『経済日報』は、「中央経済工作会議は、不動産市場の平穏な発展を確保

し、不動産業界の合理的な融資需要を満足させなければならないと提起したが、最近、中

国人民銀行、中国銀保監会は共同で主要銀行貸出工作座座談会を開催し、中央経済工作会

会議の精神を全面的に貫徹しなければならないと提起した」と報じている。

 1月20日付け『経済日報』によれば、最近,省レベルの両会(人民代表大会と政治協商

会議)が集中的に開かれた。目下、31省が既に2023年の経済成長予期目標を発表しており

、うち29省が5%前後あるいはそれ以上としている。うち河北、福建、四川、河南は6%、

上海は5.5%以上、浙江、山東,広東は5%以上、北京は4.5%以上としている。

 来る3月に開かれる全人代で、2023年の経済成長予測目標は5%前後かそれ以上となる

可能性が大きい。人民元対米ドル相場は今年前半強含みに推移する可能性が大きい。

                           (2023年2月1日記す)

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